何年前のことだろうか、髄膜炎・脳梗塞・脳出血と三つの病気に短期間に立て続けに襲われ、しばらく入院していたことがある。その期間ずっと長い夢を見ていた。といっても時々途切れ、その区切りごとに拙老は転生して、新しい“自己”を生き始めるのだった。つまり、いま病院にいるのは無数の、無限回転生する“自己”の一つだった。
退院してから、昔の教え子たちに連れられて車椅子で浄瑠璃寺に行った。そこにコンガラ童子の像があって、「やっと来たか」という顔で拙老を迎えてくれた。何世紀も待たせたような気がした。
コンガラは初発(はじめ)を知らず未現(ゆくすえ)も時空の海にただよへるなり
思ひ出でよ未生以前のものごころ時空(とき)をめぐりてわれと生(あ)れにき
コンガラは人を恋ふとて億兆の時空を超えてぞ娑婆に来にける
コンガラは人恋しとて山城の瑠璃の御寺に居場所定めつ
コンガラは人里恋ひて津の国の芦屋の里に住みまぎれけり
コンガラは薬師慕ひて因陀羅(インダラ)の網のくまぐま泣いてめぐりぬ
津の国の芦屋に年を経るわれをもしコンガラと問ふ人もなし
コンガラは素性知られず明王の脇に澄まして立つてゐるなり
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