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さしあたっての執筆計画

毎年愛顧していた『出版ニュース』誌が来年3月下旬号で休刊することになったそうです。人々の活字ばなれ・出版ひでりが滔々と進行していて、日本では読書文化の衰亡がかなり深刻みたいです。こういう時、拙老は昔何かの本で読んだことのあるフランスの軍人の言葉を思い出します:「わが軍の右翼は圧迫され、中央は崩壊。動きが取れない。最高の状況だ。これから突撃する。(Pressé fortement sur ma droite, mon centre cède, impossible de me mouvoir, situation excellente, j’attaque.。」 (フェルディナン・フォッシュ)

編集部から許可を頂いたので同誌への最後の寄稿を以下に転載します。

[2019年出版予定]

二月に講談社から『元禄五芒(ぼう)星』を刊行します。次の五篇を収めた小説集です。
①「チカラ伝説」
②「元禄不義士同盟」
③「紫の一本異聞」
④「算法忠臣蔵」
⑤「徂徠豆腐考」
このうち③を除くと、他の四篇がいずれも「忠臣蔵」事件に関連しており、今更ながら、この出来事がいかに大きな波紋を同時代および後世に広げていたかに驚かされます。①は色情論的、②は行動学的、④は経済理論的、⑤は法思想的な角度から、忠臣蔵問題にアプローチしています。
⑥は、徳川綱吉の時代に生きた戸田茂睡(もすい)という学者が著した江戸地誌『紫の一(ひと)本(もと)』を題材にしていますが、それはほんのとば口で、本当は、元禄の江戸の基底深くに広がる江戸の原景に立ち入ろうとした作品です。

その後二〇一九年の後半には、まだ版元は未定ですが、小説集を二冊まとめて刊行する予定です。ざっと以下のようなラインナップです。
『明治伏魔殿』
1 粟田口の女
2 銅版画家
3 巷説銀座煉瓦街
4 虎尾
5 鹿鳴
『明治奈落』
1 龍馭
2 崩し将棋
3 乙女峠のマリア
4 忠臣蔵生人形
5 維新のパガニーニ
久しぶりに幕末・維新物を揃えましたが、実をいえば「幕末」と「明治」とは一つながりに連続した時代なのです。いっそのこと「一八六〇年代日本」という切り取り方をした方がいいくらいです。社会の新陳代謝が一度に急速に、突発的に、掌を返すように、実も蓋もなく進行したので、人々はそれに翻弄されてさまざまなドラマを繰り広げました。 さて「粟田口の女」は、男運の悪い武士の娘が京都粟田口で死罪になる話。「銅版画家」は贋金作りの画師の話。「巷説銀座煉瓦街」は辣腕政治家井上馨と新聞人服部撫松との角逐の物語。「虎尾」「鹿鳴」「龍馭」の三作は似たようなタイトルを並べましたが、順に、〈虎尾の会〉を作った山岡鉄舟、鹿鳴館のセクハラヒーロー伊藤博文、脱走歩兵隊士から明治天皇の馭者になった梶原雄之助といった人物たちを主人公にします。
また「崩し将棋」は、上野彰義隊と思春期の少年少女の物語。「乙女峠のマリア」は文豪森鴎外の幼児体験、「忠臣蔵生(いき)人形」は幕末明治の見世物に見る忠臣蔵劇理解の庶民感覚、「維新のパガニーニ」は幕末動乱のさなかに渡欧した三味線師の冒険です。
ご期待下さい。

愛読していた『出版ニュース』が三月で休刊になるとのことです。大変残念ですが。今後も拙生の出版予定にご興味がおありでしたら、「野口武彦公式サイトwww,nghiko.com/」を覗いていただければ幸いです。