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時間の心象 岩井画伯の画業

岩井康頼ホームページ より

www.google.co.jp/org/wiki光円錐 より

かれこれ30年ほど前、岩井康頼氏の個展カタログに拙文を草したことがあります。その後長い歳月の間に、画面全部の記憶は薄れましたが、ただ一つ、鮮明に覚えているイメ-ジがあります。遠い地平線の上に、高く、広い空を悠々と飛んでいる大きな蜻蛉の姿です。もちろん、現実には見かけない種類です。勝手に「古代トンボ」と名づけました。

最近、岩井画伯から送っていただいた展覧会「円環する風景2018異界への旅」のカタログにあったのが、上に一部を拡大してげている作品です。「円環する風景――水と墓標」と題されています。タイトルからすると、この台形をしたオブジェは、画面全体にひろがる暗い水面を浮遊している物体なのかも知れませんが、拙老の関心は台形の最下層にいる何やら得体の知れぬモノたちの姿にあります。

手前のいちばん目立つ所で寝そべっているのは、バッタみたいです。同じ層にあるヒトデやらエビの殻やら変に小さい海鳥などと比べるといやに大きい。とてもこの世の虫とは思えません。これも古生代から生き延びてきたに違いありません。これをやはり「古代バッタ」と名づけましょう。30年前の古代トンボの姿は見当たりませんが、それにしても、岩井氏の心の中で、種類こそ違え始原の昆虫が生存し続けていたとは、と嬉しく驚きました。

ところで、岩井画伯のこの画像とその下に示した時間錐の概念図との間には基本的な一致があります。右はふつう「ミンコフスキー空間」と呼ばれる4次元(3次元空間+時間)時空上の超円錐の直観像を図示したものですが、この図では、われわれの「現在」が過去円錐と未来円錐それぞれの頂点が接する一点で、両円錐を縦貫する垂直線を水平に切断する平面で示されます。「現在時」は時間軸を未来方向にーーつまり上向きにーー移ってゆく動点であり、「現在地」はそれを中心として周囲に同心円状に拡がるーーその広さは光に照射される範囲で決まりますーー面積を持つわけです。

画伯の作品では、「現在」は中央にある豊麗な黄バラになっています。そこから下方の過去円錐にあたる部位に画伯独自の視覚空間が蓄積されています。最古層の古代バッタはもとより、層理にまたがってはびこる海蛇や蜥蜴も見えます。つまりこの30年間に画伯内面の時間の地層は確実に積み重ねられ、中に棲息している奇態な生類も変わらず成育していたのです! 久闊を叙した思いです。

最近、拙老には時間の姿がよく見えるようになりました。「見える」というと変ですが、視・聴・嗅・味・触といった五官の他に「時感」とでもいうべき別の感覚が開いたような気がします。画伯が絵画空間のうちに時間の視像を造形してくれたことを力強く感じます。  了

 

 

 

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