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甲山に異変

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今住んでいるマンションの屋上がちょうど手頃な運動場になっていて、足のリハビリに役に立つので、週に3,4回は歩行器か杖を使って屋上を一周することにしています。いつも途中で適当な場所にしつらえてあるベンチで一休みします。ここからだいたい3時の方向に甲山が見えます。写真の通り、ここ芦屋からはごく小さくしか見えませんが、それでもその特徴のある山容は、標高309.2mの割にはよく目立ち、時々それを眺めるのは拙老の生活の時間にアクセントを与える天然のランドマークになっています。

甲山は大昔の火山の痕跡です。1200万年前に噴火していたそうです。200万年頃始った「六甲変動」という地殻変動で隆起してできた六甲山系とは生成が違います。だから甲山は六甲の連山から離れてぽつんと孤立しています。背丈も六甲の山々が900mクラスなのに比べると小柄で、こぢんまりとしているのも魅力です。しかしそうした自然地形の上に人間の目はまた別箇の図柄を描き出すものです。あたかも夜空の星々の無秩序な散乱の上に、人間の創造力がいくつも架空の補助線を引き、さまざまな星座や星宿の絵面を浮き出させるのと同じ寸法です。

屋上から目を少し南に転じると、ほぼ5時の方角に大手前大学を裾野に控えた独特の形の丘陵が横に長く見えます。四足歩行をする恐竜が地面にうずくまる、というより、まるで伏せて攻撃態勢を取っているように見受けられますので、拙老はひそかにこれを「イグアノドンの岡」と名付けて楽しんでおりました。いつか時が来たら、この恐竜はジャンプして甲山に襲いかかるのではないかと空想が膨らみます。地上に奪われた海底の宝珠を取り返そうとする伝説の竜王のように、「イグアノドンの岡」は甲山の宝珠状の山頂部に飛びかかって噛み付くに違いありません。その「時」とはいつでしょうか。もちろん、甲山が再度噴火する日です。

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甲山が火山だったことを知らない人は多いようです。リハビリでお世話になっているセラピストさんもその一人でした。彼女は大阪南部育ちでこの屋上から、空がよく晴れてアベノハルカスが「まる見えに」なる日はたいへん上機嫌で歩行トレーニングも優しくなります。そうそう、アベノハルカスはここから6時の方向に見えます。それはさておき、甲山の噴火の噴火が近いという話は、折しも桜島や阿蘇、それから箱根に立て続けに火口変動があった頃なのでだいぶ信じられたようです。うっかり冗談をいうものではありません。

つい最近、甲山にまた異変が生じました。山の色が何だか変になったのです。遠景写真では目立ちませんが、近景で芦屋市内の六甲支脈の中腹を写したのを見ると、起きていることがはっきりします。緑に混じって赤みを帯びた梢が多くなっているのに気付きます。9月にしては早すぎる紅葉ではありません。枯れかけているのです。

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この現象にいちばん最初に目を付けたのは例のセラピストでした。「今年はモミジがいやに早い」というので気を付けて見ていたら、赤いシミはどんどんシラクモのように広がって行きます。インターネットで調べてみたら、これは「ナラ枯れ」といってカシナガキクイムシ(略称カシナガ)という害虫の媒介によるナラ菌の繁殖の結果、ミズナラ・コナラ等の樹木が枯死したものだそうです。被害が今後どの程度広がるかはわかりませんが、目下全国で予防措置が取られて いるとのこと。参考のために、かつて甲山が禿山(?)だった時の写真を掲げておきます。古いものなので、やはりインターネットの『西宮ブログ』「明治以降の甲山の姿」http://nishinomiya.areablog.jp/bungakusanpoから拝借しました。

 

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最近の御時世では何が起きても不思議はない世の中ですが、せめて六甲や甲山の眺めは永遠に緑をとどめていてもらいたいものです。写真のオヤジの禿頭みたいに見える箇所は裸山なのか、背の低い灌木に被われているのか、これだけではわかりませんが、どっちにしろあまり見てくれのよいものではありません。そういえば昔『わが谷は緑なりき』という映画がありましたっけ。(了)

 

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