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カラスの千年王国

リハビリのため週に何日かは屋上で杖をついて歩いているので、鳥たちとすっかり馴染みになりました。中でも最近よくおつきあいするようになったのが、近くの山林から飛んで来て、屋上を我が物顔に闊歩するカラスの一群です。カラスとイソヒヨドリ・セキレイ・ハトなど一般の鳥たちとの間にはかなりの力関係があると見えて、小鳥たちの声が聞こえない時があります。どこかでひっそり逼塞しているに違いありません。案の定、屋上はカラスの天下になっています。

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カラスは頭のよい鳥だそうです。人の顔を覚えるといいます。たしかにそう思えるふしがあり、いつもリハビリに来てくれる大阪府南部出身のトレイナーさんがいいお得意さんにされています。屋上に出て行くと、かならずどこかから1羽が姿を現し、なつかしげに近寄ってきます。ところがトレイナーさんはカラスが苦手と来ています。この間などは優に20羽はいそうなカラスの群がどこへ急ぐのか、揃って頭上すれすれに飛び去った時、カラスがびっくりするほどの大声で絶叫されて、拙老は足がもつれました。

そういう次第で、拙老も何だかカラスたちの気心がわかるような気がして来ました。近頃は、この辺のカラス社会に何か異変が生じたらしく、いろいろ不穏な動きが観察されます。大小のカラスのグループが隣のマンションの屋上やら市民公園のプールのへりやらに集結して会議を開いています。プールの水に入ってカモに迷惑を掛けているのもいます。しかしカラスには水かきがないので、さすがに水泳ぎはできません。

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どうもカラスには競争相手より高く登ろうとする習性があるようです。屋上に連なる街灯の上・テレビアンテナの角・避雷針のてっぺんなど少しでも高い所をめざして争うように留まります。風が強い日などずいぶん大変だろうと思いますが、どうにかバランスを取って静止しています。

連中はただカアカア、ギャアギャア、クワックワッ、アッホーなど人間には意味不明の音を発していると思われていますが、実は拙老、最近あるひょんな事をきっかけに鴉語(あご)を解するようになったので、以下にわたって、この前カラスたちが交わした密議の内容を通訳してみようと思います。

聞いたところでは、うちのマンション近くの空では、近くの2つの組織が対立しているそうです。芦屋神社の森を塒(ねぐら)にする一族と親王塚(在原業平の父阿保親王の塚と伝える古墳)の森に巣食う派閥が張り合っていて、その対峙線が市民プールあたりなのです。近頃。昼間から夜までやたらにカラスが騒がしいのは、「芦屋神社組」と「親王塚組」との出入りのせいなのでした。

「やあ、うちの若い者がワルサをしてるそうで、えろうご迷惑でんな。ちと元気がありすぎで困っとります」
「何の何のお互い様でんがな。ところで、もうそろそろ人間社会をひっくり返したらどうでっしゃろ。若い者が血気にはやって、しきりに急いでますけど」
「もう少し時期を待ちましょう。人間どもはあとちょっとで完全に息が切れますがな。今ではまだ余力があります」
「だいぶ混乱してるようですけど。たとえばアメリカでもイギリスでもワケノワカラヌ種属がモノノワカル種属を圧倒して、われらカラス族がぞくぞくするほど混乱が広がってるんと違いまっか。隣の韓国もそやけど、どこでも混乱のしかたに法則があるやんけ。下が上を信用せえへんのやね」

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「そうかも知れんが、まだ時期は早いわ。あとはただはひとつ忍の一字やね。何事も辛抱や」
「親分がそう言わはるのやったら、お言葉通りにしまひょ」

この話題はこれで打ち切りになりましたが、多くの若いカラスたちは思い思いの高所に陣取り、人間が死に絶えた後、この世界はおいらたちの王国になるのだ、おいらたちの支配は千年続くのだという確信に満ち、昔の殿様が天守閣から自分の領地を臣下に分け与えたように、眼下のマンションや民家を眺め下ろしているのでした
。(了)。

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