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老鴉スローニン

去年の11月15日付のブログ『カラスの千年王国』で、毎週マンションの屋上でリハビリののため歩いているうちに、カラスの一群とおつきあいするようになったことを書きました。今日はその後日談です。

カラスにも老若の新陳代謝(しんちんたいしゃ)はあるみたいで、群の構成もすっかり入れ替わったようなのです。というと何だかアイマイですが、ともかくカラスはどれを見ても同じようにしか見えないものですから、どの群が何羽だけ若返ったやらとんと区別がつかないのです。みんな同じような顔、似たような黒ずくめのスタイルでカアカア声を揃えて啼いています。

ところが最近、そんな文字通り「烏合の衆」だったカラス群の中の一羽が単独行動を取るようになったのです。わがマンションの屋上は4面ぐるりに安全のために金網フェンスがめぐらしてあって、そこから最外縁までの間にわずかなスペースがあります。その狭い所に一羽のカラスがうずくまって啼いているではありませんか。

そういえばその2、3日前からその(?)カラスの素振りは目立ちました。やはり屋上に立っている街灯の球型の笠の上に留まって、ツルツル辷って安定の悪い姿勢を保つために懸命にバランスを取りながら、必死に声を搾(しぼ)りだしていました。カアでもガアでもギャアでもなく、ヒャアというような声でした。拙老に何かを伝えたい様子でした。

だいたいカラスはグループで行動するのが普通で、単独行動は滅多にありません。飛ぶ時も、刑事のように2羽一組でつがいになって飛ぶのです。このカラス君はハグレ烏らしく、誰も仲間がいませんでした。きっと若い者から相手にされなくなったのでしょう。突然、モーレツな親しみを覚えました、

わが友老鴉(ろうあ)よ! きみに名前を贈ろう。これからは「スローニン」と呼ぶよ。

老鴉スローニンは、もちろん「素浪人」から来ています。芝居に出てくるカッコイイ浪人者はたいがい黒羽二重でキメテいますが、実際の素浪人は黒い生地がだいぶくたびれて羊羹色(ようかんいろ)になっているのが相場です。わがスローニンは若い頃にはさぞ黒々と羽振りがよかったろうと思われますが。今は全体として赤茶けてきています。スローニンであることは一目でわかります。

最後にスローニンを見た時は、若いカラスたちが連れ立って大声で 鳴き交わしながら遠出をしていった後、留守を言い付けられたみたいに、1羽だけで屋上の端に居残っていました。飛ばずにただ啼いているだけでした。もう声も出ていないようでした。こちらに顔も向けません。

スローニンはそれから下の方へ身を躍らせました。「あ、飛び降りた!」と側にいたトレーナーさんが悲鳴のような声を挙げました。拙老は歩行器があって動けませんでしたが、フェンスまで見に行ったトレーナーさんの話では、無事に着地して地上のハトの群に近づいたが、「あっちへ行け」と追い払われてスゴスゴどこかへ歩いていったそうです。  了

 

 

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