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2017新刊お披露目――『ほんとはものすごい幕末幕府』

世は出版不況の時代だそうです。なんでも若者の活字離れはすさまじいのだそうで、ともかく本が売れないという話です。需要がないのだから供給にも声がかからないのも道理で、拙老ごときに注文が来なくなるのは理の当然でしょう。しかし「捨てる神ありゃ拾う神」で、このたび、ほぼ2年ぶりに1冊の本を刊行する運びになりました。             ここにお広めをさせていただきます。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         書名は『ほんとはものすごい幕末幕府』といいます。多少キャッチフレーズじみたタイトルですが、つ

ねづね自分は時代遅れの、というより時期外れの(アナクロの)佐幕派であるこちを公言している拙老にはお誂え向きだと思いましたので、引き受けさせていただきました。旧幕時代は明治以来の近代日本から闇雲に否定されましたが、真相はそうではなくて、江戸時代がいかに近代日本を準備・用意していたかを虚心に眺めようという立場です。

拙老はこの本で初めて「監修」というお役目をしてみました。何人かのライターに書いていただいた原稿をチェックし、必要だったら手を加え、全冊のトーンを統一する仕事です。幸い皆さん江戸幕府がお好きなようなので、別に支障はありませんでした(パート1~パート3)。拙老自身の文章はパート4及びエピローグです。2枚目の写真にあるように「そんな幕府がなぜ滅亡したのか」というテーマです。もっと砕いていうと、もし幕府がそんなにいいことづくめだったのなら、なぜ潰れる羽目になったのかという自問自答です。パート1~3までで力説してきたことをパート4ではひっくり返さなければならないわけです。

これは実をいうと大変難問なのです。拙老はその難問性を読者に分かってもらうために、野村元阪神タイガース監督の名言を借りて「不思議の負け」と表現しました。この不思議さは、近代日本からおそらくは故意に見落とされて来たものです。

近代日本の2つの支配的な史観――皇国史観とコミンテルン史観――は、どちらも、あっさり「必然性」という言葉で説明しています。皇国史観は明治天皇制政体を日本古来の天皇親政に復帰する「王政復古」と見なし、それを必然とかんがえました。コミンテルンン史観は明治維新を前近代の封建制から近代の資本制にいこうするのは歴史的な必然であると考えました。江戸時代(徳川日本)を否定するために右翼と左翼が手を握ったわけです。以来、「必然」という語が幅をきかせるようになりました。今でも「徳川慶喜が伏見鳥羽で負けたのは歴史の必然だった」などと平気でいう人がいます。

拙老はそれに対して、歴史とはもっと融通の利く、柔軟な構造を持っていると思います。世が移り変わってゆく間に偶発的な出来事が介在してるのは不可避であり――「必然」だけでなく「偶然」も作用し――、「もしこうだったら」と幅を持たせるる余地があるものだと考えます。たとえば、慶応4年(1868)1月4日、京都南部の鳥羽街道には猛烈な北風が吹き付けましたが、もしこの風がなかったら戦局はどう変わっていたか分かりません。

幕末に誰が幕府の最高責任者だったかも偶然です。すぐれた行政能力を持つ政治家が同時に優秀な軍事指揮官であるとは限りません。もし両方兼ね合わせた政治家が政権のトップに立っていたとしたら、それは僥倖というものであり、それこそ偶然中の偶然です。しかも幕府始まって以来のピンチの時期に、そんな人物が居合わせる確率はきわめて低いでしょう。人間の歴史も、手持ちのカードで勝負するしかないのです。

拙老は、明治維新と呼ばれる権力交替期には、あった通りとは違う顔ぶれの権力者集団が政権を樹立し、歴史も起きたのとは違う経過をたどった可塑性が豊富にあったと思います。ふり仰ぐ夜の空に、今とまったく図柄の異なる星座群が広がっているわけです。   了

 

 

 

 

 

 

 

 

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