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新春特報 NHKテレビ番組『決戦!鳥羽伏見の戦い』評判

新年おめでとうございます。

この欄でもお知らせしたNHKBS番組の『決戦!鳥羽伏見の戦い』が去年の12月30日に放映されました。よくできていたと思いましたので、さっそく同番組の制作に当たられたディレクターのK氏に感想を記したメールを送りました。同氏のご快諾を得ましたので、番組内容の紹介も兼ねて、ここに掲載させていただきます。

「番組を拝見しました。

時間はたっぷり、画面は材料豊富で、さすがNHKの実力を
堪能させていただきました。拙著の骨格を正確に生かして下さって
有難うございます。そのデテールが羨むべき取材力によって、映像
になって視覚化されると、まるで初めて知ることのように新鮮に
感じられました。

貴番組では、滝川具挙父子を狂言回しのように使ったのがうまく行って
いたと思います。役者もぴったりでした。個人の目鼻立ちが見えると
歴史上の出来事がヨリ身近になります。が、その代わり、感情移入が
生じて、突き放しにくくなるのが難ですね。具挙はマッスグな気性ですが、
正直(せいちょく)というより、愚直な人物だったと思います。クソマジメ
に誤算を重ねるのです。それを笑殺するアイロニイ感覚が史眼には必要かと
存じます。

岩倉具視は少し品が良すぎたような気がします。もうちょっと「悪党面」
でよかったのではないか。おそらく現代の管官房長官そっくりの顔を
していただろうと思うのですが如何?

まだ色々ありますが、残りはいずれ拙生のホームページに書かせていただこう
と思っています。事によったらこのメールをそのまま引用させていただくかも知
れませんが、ご許可くださいますか? 拝」

そしてもう一つ拙老にとって幸先がよいことには、放映の翌日に早くも御好評いただいたブログが公開されました。そのURLを記しておきます。http://d.hatena.ne.jp/Makotsu/20171231/p15?a=2.50367081.1149790850.1514780381-506733059.1483415989

ともかくこの番組では、表現したい物や事を映像で伝えるスキルに圧倒されました。「映像力」という言葉が頭に浮かんだほどです。特にシャスポー銃と五斤山砲の紹介はみごとでした。当方はしょせん文章だけですから、画面に実物を提示されたらとても勝負になりません。参りました、とシャッポを脱ぎます。

とはいえ、全体の構成については一言なからざるべからずです。拙老は、歴史ドキュメンタリーにも「文体」があると思います。ドキュメンタリーの場合はそれを「話法「語り口」といってもよいでしょう。K氏への私信で拙老は「滝川具挙父子を狂言回しのように使ったのがうまく行っていた」と評しましたが、それは、K氏が滝川具挙をあまたの関係人物の中からスポットし、文学理論でいう「視点人物」として活躍させているからです。「視点人物」は全事件の輪郭・顛末・一部始終を通観できる特別な位置にいます。そしてこの「視点人物」と作中人物との重なり合い具合が、作品世界の遠近感・深浅感に微妙なヴァリエーションが生み出されます。

この番組はいわゆる歴史ドキュメンタリーでしょうが、それにもやはりドキュメントとドラマの両極があり、個々の作品は、その両極の間にできるスペクトルのどこかに定位します。書かれる歴史ばかりでなく、実際の歴史上の事件も必ず何らかの(何ほどかの)ドラマ性があります。(また逆に、どんなドラマもドキュメント性が不可欠だということになります。)すべての歴史――皆さんご存じのように、「史」という語は過去に起きた事柄とそれを文字に留めたものとを区別しません――の結末は悲劇的要素を孕みますが、たとえば鳥羽伏見の戦いと徳川慶喜、それに適度のコミック・リリーフを与えたら絶妙なテクニックになるでしょう。お汁粉の甘さを引き立てるためにちょっぴり加える塩味のようなものです。

拙老にはそういう喜劇的脇役として陸軍奉行の竹中丹後守重固しげかたや、慶喜の小姓村山摂津守鎮まもるといった名が浮かびます。が、それは意地悪な笑いを好む拙老の僻好にすぎません。最後に、80時間に濃縮された歴史過程をみごと2時間にまとめあげた手腕に感服したと申し上げようと思います。(念のために申し添えますと、拙著とは、『鳥羽伏見の戦い』中公新書2010です。)  了

 

 

 

 

 

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