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次の作品集が刊行されます

酷暑もまだ去りやらぬうちに次々と台風が襲来します。とりわけ21号台風は間近に迫り、近来人界の消息に超然としているつもりだった拙老でさえ人が心配になったほどです。テレビは今、関西空港機能麻痺のニュースで持ちきり。大阪・神戸の被害も続々報道されています。それに比べるといかにもローカルですみませんが、芦屋の里では日頃カモが泳いでいる宮川が今回ばかりはこんな姿になりました。

 

平坦な道路のように見えるのが川の水面です。カモの親子はどこへ行ってしまったのでしょうか。

こんな天候災害騒ぎの最中に、いかにも私事めいて恐縮なのですが、ずっと懸案だった次の小説作品集が刊行されることに決まりました。タイトルは前回の『元禄六花撰』の後を承けて『元禄五芒星ごぼうせい』としました。全部で5つの作品で構成しています。

こういうラインアップです。順不同です。

①「チカラ伝説」。赤穗47士のうち、大石内蔵助の長子主税はただ一人だけ、他の義士たちと異なる扱いを受けています。元服前の若衆姿で登場する特別待遇です。少年愛という独特のエロティシズムがこの人物には纏綿てんめんとしています。このことは元禄文化を解く何かのカギになるかもしれません。

②「算法忠臣蔵」。この小説では、正伝では終始裏切者として語られる大野九郎兵衛とその子群右衛門が主役になります。赤穗五万石は、特産物である塩の直営という仕法を通じて、歴史社会が要求する重金主義の時代を先取りしていた藩社会であり、18世紀江戸の経済的時流の先駆的な役割を果たしつつあったといえます。浅野内匠頭の短慮がつくづく惜しまれます。殿中刃傷・赤穗藩取潰しの後、大野父子が次善策に腐心する姿を描きます。

③「元禄不義士同盟」。この作の主人公は歌舞伎の世界から拉し来った色悪いろあく斧定九郎です。芝居では大野九郎兵衛の息子ということになっています。本作は、鶴屋南北の『菊宴月白浪きくのえんつきのしらなみ』の趣向を借りて、密かに計画されていた討入り第2陣が大石一派の成功によって不要になり、世間から「不義士」とさげすまれたまま消えてゆく歴史の不条理を描きます。

④「徂徠豆腐考」。天下の大儒荻生徂徠が政治家として颯爽とデビューしたきっかけが、討入りに成功した赤穂義士一同の処分について鮮やかな法的裁断を下したことであったのは有名な事実です。その際、徂徠先生の思考の根本にあったのは、「あれこれの事物の具象性を切り落とした純粋に抽象的思考ができるか」という難問でした。その徂徠先生が無名の貧乏学者だった頃、近所の豆腐屋の援助で飢えを凌いだ話は落語で伝えられています。トウフをめぐる珍問答が徂徠先生に「抽象」とは何かのヒントを与えたのではないかというフィクションです。

⑤「紫の一本異聞」。一篇の主人公戸田茂睡とだもすいは国学者・歌学者などいくつかの肩書がありあすが、一番よく知られているのは江戸地誌『紫の一本むらさきのひともと』の著者としてでしょう。茂睡は徳川5代将軍綱吉の同時代人ですが、『紫の一本』は江戸に武蔵野――そこには昔ムラサキグサが豊かに野生していました――を求めて色々な地形を歩き回ります。が、幻の草はついに見つけられません。最後に足を運ぶのは小石川の幕府薬草園――現在の小石川植物園――です。さて茂睡はそこで何を見出すでしょうか。

『元禄五芒星』は来年2月刊行の予定です。  了

 

 

 

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