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夢という時空連続体

拙老が便々と馬齢を重ねている80年の間に、世の中で大きく変わった何かがあります。それが何であるかを一言でいうのは困難ですが、たとえばその一つは、時間と空間のとらえ方です。「時間」と「空間」という別々の言葉で言い表わされていますが、本来は一つながりの事象の二つの位相にすぎない、という見方が支配的になっているそうです。もともと一つの「時空連続体」の異なる現れ方なのだそうです。

その実体を表記するために理数系の人々は、「非可換幾何」とか「 位相多元環」とかの議論を持ち出しますが、拙老のような年寄りにはそんな難しい事はよく分かりません。別にやたら数式を使わなくても      それはそれで、いずれ身に付けなくてはならないでしょうが  感覚ででとらえることも出来るのです。人間の無意識は時空を連続体とキャッチする能力を本来内蔵しているのではないか。

現に、拙老は毎晩見る夢の中で、時間と空間の境界を取り払って自由自在に行き来しています。2月25日に見た夢はこうです。

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私は江戸時代末期の歌舞伎狂言作者になっていた。『四谷怪談』のある一幕を書替狂言にして上演しようとしている。出来上がったホンをまず茶番の形で御披露目しようと茶屋を借りきって思いきりさはしゃぐ。弦歌の騒ぎ、三味太鼓のぞめきが一段落して人々が引き揚げ、座敷がシインとした時、友人がいう。「ダメだダメだ、こりゃ失敗だ。誰も金主に名乗り出ないじゃないか」。私はガックリ落ち込む。目論見がうまくいかないばかりか、茶屋の支払いのために莫大な借財を背負い込むことになったのだ。今は亡き母が現れて、「あたしゃ今年六十三になるんだからーー現実には九十歳まで生きたーーしっかりておくれ」と私を責める。

身辺に借金を取り立てる連中が迫っていた。私は難を逃れて、アメリカの大学で教職に就いているが、もうそこまで追手が来ている。マフィアの一団が取り立てを請け負っているらしい。私はさらに南米に亡命しようとするが間に合わず、すでに大学キャンパスは包囲されている。周囲の樹林に銃器を手にして潜んでいる人影が見える。一団の頭目は クリント・イーストウッドの演ずる九十歳の老人だ。私は反撃に出て、一団の乗ったヘリコプターを撃墜させる。

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その後でどうなったかは記憶にない。  (了)

 

 

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