お待たせしました。寄せられた句案が4つになりましたので選考にかかりました。候補になる投句は以下の4句です(順番は到着順)。なお前句は「押しボタン流し目に見る同じ階」(湖愚)です。
①特売場へとさっと駆け出す 三山
②屋根を伝ひて賊逃るらし 里女
③馴れ馴れしいと噂の主任 倉梅
④ダイヤモンドで純情倒す 綺翁
捌き主文:④の「ダイアモンドで」を初ウ4に治定します。
捌き理由:前句の句順は「恋」の3句目に当たっており、どう付けるか誰でも迷う所です。「囀りに」句順表
一応「雑恋」の扱いにできますが、前句とのつながりはちゃんと保ってなくてはなりません。恋句には いろいろな出し方がありましょうが、芭蕉による裁断の言葉が『去来抄』に記されています。「恋句出て付けよからん時は、二句から五句もすべし。付けがたからん時はしひて付けずとも一句にても捨てよ。」つまり恋句は付けやすければ五句まで続けてよいが、付けにくかったら一句だけでもいい、というのです。芭蕉だからといって、何もこれを金科玉条にする必要はありませんが、今はその権威に従いましょう。
4句とも目前の「恋」にいつまでも纏綿てんめんしていないのが特徴です。揃って「恋離れ」をめざしていると言えましょう。ちなみに「恋離れ」の句とは、「恋の前句に付けると恋になるが、一句独立しては恋の意をもたないもの」(東明雅『連句入門』)だそうです。
さて今の場合、「押しボタン」の前句に付けやすいか付けにくいかは初ウ4の句主の判断次第ですが、投句の4つを眺めると、①と②は付け筋の流れがよく見えない嫌いがあるように感じます。③は逆にいささか付き過ぎの所あり。前句のイヤラシイ手の触感がまだベッタリ残っていて、「恋離れ」をしようとするが振り払い切れていないという印象です。
④は一種の俤おもかげの付――『金色夜叉』を連想させます――で、恋が物欲に負けるというリアルな「恋離れ」になっています。これが本句を初ウ4に選考した理由ですが、他にもう一つ理由があります。それは綺翁子がこの歌仙の句主欄に名を連ねるのが最初だということです。句順表に明らかなように本歌仙の連衆はまだ6人しかいませんでした。この歌仙は「出勝でがち」方式でやっていますからあらじめ連衆は何人と決めませんし、こちらから指名もしません。もうしばらくこのシステムで進もうと思っています。皆さん、どうかダメモトぐらいの軽い気持で御投句下さい。
次は初ウ5「囀りに」句順表12、雑の長句です。
シラバス――参考資料。ユーチューブで『雑俳』を検索すること。動画がいくつもあるが、金馬のがいちばんよい。音声だけだがよく祖型を保っている。
初ウ5、投句します。
*「おいそぎ」でくるくる回る槽の中