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精神科医の友への手紙(2)

平井孝男様。お久しぶりです。この前お手紙を差し上げ、それを本ブログへ公開させていただいたのが、2001年1月21日でしたから、いつのまにか一年以上が経ってしまったわけです。現在、平井クリニック院長、新大阪カウンセリングセンター長と赫々たる名声に輝いておいでの貴君をつい昔のよしみで「友人」などと気安くお呼びするのは失礼のきわみですが、まあ長年のお付き合いに免じてお許し下さい。

御近著をお送り下さって有難うございました。いつも治療の現場で困難な問題に取り組んでおられるお姿に頭が下がります。

この一年の間に起きたことの中でいちばん大きかったのはやっぱりコロナの襲来でしょう。「感染を防ぐ対策を取り、地道に一歩一歩手探りに進んで行く」のみだと御来信にはありましたが、本当にその通りだと思います。昔から災厄の 時には洋の東西を問わずヒトリテンデンコ(Help yourself)だと申しますが、いざとなると一人きりでは判断を下すのも難しくなります。

わが身は、感染したらオシマイの確率が高いと脅されている「後期高齢者」に分類されているのですが、どういうものか実感がまるでありません。家に閉じこもったきりで人と会わない――お医者さんも来診してくれます――からかも知れませんが、世間並みの恐怖や不安が感じられないのです。ぼくは今ヤモメグラシで、妻子の養うべきもなく、言ってみれば「無役」の旗本・御家人のような身分だからかも知れません。いずれにせよ責任のない立場なのです。現役の人々からはたぶん腹立たしく見えるでしょう。しかしこの別に根拠のない安心感は高い致死率と引き換えです。

どうも最近のぼくは「老人性多幸症」に罹っているのではないかという気がします。自己診断をするものではないと申しますが、今みたいな御時節には、無責任に楽観的な 方が不安神経症になるよりはマシなのではないでしょうか。

リハビリはまじめにやっています。この前 ちょっと厳しいトレーナーさんに「♪今日も今日とて親方さんに、芸がまずいと叱られて」という歌の一節をユーチューブで見せましたが、反応はもひとつでした。最近の人はもう美空ひばりを知らないらしい。『越後獅子の唄』には他の効能もあります。ロレツの回らない構音障害の治療にも有効です。小さな テープ・レコーダーに歌 (?)を吹き込み、音程の狂いを直すのも苦労でなままかの大仕事です。

ぼくの方はまあこんな具合に毎日どうにか生き延びて います。何だかこうやって生き残るような気がします。貴兄もどうかお元気で天職を全うされるように心からお祈りします。天運長久。

腰折れの一首。〽口ずさむ美空ひばりの越後獅子バチでぶたれてリハビリをする。

 

 

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