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枯桃蓓蕾(はいらい)――桃叟夏の陣

その後いろいろあり、本ブログの更新が延び延びになっていました。どうもすみません。コメント欄に、初めての方々から僅かなながら投稿がありました。文は孤ならず。こういう反応があるかぎり、どこかに読者がいるわけですから、このブログ続けます。

[潮目の行方]

前回お知らせした中国読書界での反響は 、その後しばらく水面下に潜んだようです。今、日中両国とも内政問題に手一杯で、文化情勢にはなかなか目が届かないのでしょう。よろしい。われらが属する言語文学空間は独特のテンポで悠々と歩むものです。せっかちにならず、時が熟するのを待ちましょう。

桃叟は、自著に対するさきの国籍を越えた反響の手ごたえはホンモノだと感じます。羅針盤が光源を感知したような物です。俄然「やる気]が出て来ました。近いうちに、某出版社が作品集『明治伏魔殿』を刊行してくれるでしょう。また、途中で放置していた『旅役者歩兵隊』連作の完結を急いでいます。

[現在地はどこか]

人々がオリンピックで浮き立ち、コロナのデルタ株に憂いている間に、歴史の奈落ではもっと巨おおきな過程が進行しているように思われます。差し当たってわが国だけのこととして、今の時疫蔓延をしぶとく生き延びた国民は、この間、生活救済のために湯水のごとく支出された貨幣、国家経済に忍び入っているハイパー・インフレと早晩直面することになるでしょう。

国家が負っている借金の規模は、1945年終戦時の日本なんてものじゃなく、1860年代、江戸幕府末期の負債に匹敵するそうです。桃叟もそう実感します。幕府は数世紀にわたって慢性の赤字を無理な大名貸しと数字の貨幣改鋳で切り抜けて来ました。が、いつまでも踏み倒すことはできず、いつかは精算しなければなりません。その解決は明治時代にまで持ち越されました。

歴史は本当に繰り返すようです。桃叟老人にはどうも現今の日本が、160-150年前の幕末ー明治の経過をたどり返しているような気がしてならないのです。舞台装置も似通っています。安政コレラ=令和コロナ。安政元年(1854)開国=令和 3年(2021)オリンピック。安政2年(1855)江戸大地震=東日本大震災。人事と天災が踵きびすを接して来訪するのもこうした激動期の特質らしいのです。

徳川幕府が瓦解した慶応4年(明治元年、1868)は、梅雨が長引いて鬱陶しく、湿っぽく暑苦しい日が続いたと記録にあります。大きな歴史の変わり目には言説や理窟じゃなくて、いきなり物象ものみなが各人の肌に「きっと何かが起こるヨ」と告げているのかもしれません。

[俳友グループの皆さんへ]

昔桃叟が好きだった言葉に「皇帝のいない八月」というのがありました。1978年に山本薩夫の映画の題名に使われたので有名になりましたが、もとは“August ohne Kaiser”と原語で記される外国ネタです。たぶんワイマールくずれでしょう。桃叟にはこの言葉が、ちょうど昭和 20年(1945)のやたらに暑かった夏のことを言っているような気がして仕方がありませんでした。

「皇帝」は実在の帝王ではありません。カイゼルでもツァーリでも天皇でもなく、強いていえば、非人格的・ 抽象的な《君主》のことです。「皇帝のいない」状態派、「無主」「無法」「無秩序」「無政府」等々と紙一重なのです。

昭和20年の8月はただ暑かっただけではありません。権力が空無――ただ空白なのではなく――であるような一時期でした。もう誰も「ああしなさい、こうしなさい」と命じないのです。と同時に、これからは何でも自分で背負い込まなければならんという過重な責務を要求されるオソロシイ時代が始まったのです。少くともそれまでは、「自己責任」などといったイヤな言葉が使われることはありませんでした。

もし皆さんが時疫の歳月をしぶとく生き延びて、将来2021の夏を回想するとしたら、きっとそれを「異常な夏」「独特な夏」として思い出すに違いありません。こんな特筆すべき季節は、みんなで連句でも作って、公共の記憶にする他はありません。

そういう次第でここに「令和三年夏3変り五吟半歌仙」の興行を公告します。総題は「皇帝のいない夏」です。今興行も夏起こしですが、連衆諸兄姉のいろいろな個人的事情を勘案して、句順に多少の斟酌が加えてあります。添付ファイルの「句順表」を参看されたし。令三「皇帝のいない八月変り五吟半歌仙句順表。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コメント2件

 行者 | 2021.08.27 20:49

先月から先生の「井伊直弼の首」を読ませて頂いておりまして、只今は三度目の読み直しとなってます。安政の大地震と一年後の台風が江戸に壊滅的な被害を与えるくだりは深刻かつ先生がご指摘のとおり何か運命的な印象さえします。
また、不謹慎かも知れませんが、受難の中で意気軒昂に張り切る斉昭の姿には笑いを禁じえません。先生が描かれる斉昭像がすっかり私にとってのスタンダードになりました。

正に昨今の我が国の情勢は幕末を思わせるものがあります。歴史が未来の予言書ならば、今こそ先生の著述からより多くを学ぶことが出来るものと考えます。また、この期にあらためて「皇帝のいない8月」に思い馳せるお話は大変興味深く読ませていただきました。混沌の時代を逞しく、したたかに、そう思います。

長々と失礼いたしました。引き続き、先生の著述を堪能させていただきます!

 ugk66960 | 2021.08.29 16:19

重ね重ねご愛読有難うございます。現今の《幕末》情勢は今この瞬間も急速に動いています。しばらく様子を見ましょう。

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