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九九の翁

拙老 この6月28日で81歳になりました。

81歳の賀を「盤寿(ばんじゅ)」というそうです。昔の教え子から教わりました。将棋盤い縦に9つ、横に9つの枡目がきちんと並んでいるところから、9×9=81なのでこういう由です。年を取っても井然と居住まいを保ち、物事に筋目が通っているというプラスのイメージがありますので、有難く頂戴して使わせていただきます。もっとも駒の居場所としては、9九は、左下隅にうずくまっている香車の位置ですからあまりパッとしないのも事実です。

前回のホームページ更新からだいぶ空き(5月28日以来)がありますが、この間、人界ではいろいろな事がありました。トランプと金正恩の米朝会談が実現して、少くともここ当分、世界核戦争は起こりそうもないという「安心感」が物理学でいう慣性法則のように全地球を蔽っています。何兆という人間がつく安堵の吐息はほとんど物質の堆積に似た重量感があります。地球の自転および公転にも影響しているに違いありません。

よく「世界情勢」とか「国内情勢」とかいいます。その場合「情勢」とはなんでしょうか? 「情」は心気の発動、「勢」は自然の生成(平賀源内などは「勢」を「まら」と読ませている)、要するに何者かの気力の生動なのです。人間個人には強いにせよ弱いにせよ、誰にも人それぞれの気力があります。あたかも滴る雫が集まってせせらぎになり、水流になり、小川になり、大河になり、やがて海の怒涛となるように、人間の気力もしだいに増幅され、量加され、集合されて、時として統御不能の巨大なエネルギーに転化することもがあります。

最近拙老は、情勢のこのような生態を一種の生理感覚として受容できるようになった気がしています。俗に「空気が読める」というのとは違います。そもそもその空気を大本から動かしている「何者かの気力の生動」を感じられるようになったということです。

この1ヶ月ほどの期間にはわが住居周辺の情勢もだいぶ変わりました。お知らせしなければならないのは、これまで折にふれてお伝えしてきた「恐竜ヶ丘」のその後です。まず近影を御覧下さい。かわいそうにこんな変わり果てた姿になってしまいました、頭と尻尾に分断され、なんだか甲羅のない亀のようじゃないですか。

いつもなら物見高くむらがって、緑の山をつぶす人間の愚行を呆れて 眺めているカラスたちも今日はあたりに見当たりません。今は塒(ねぐら)の山林を一時は明け渡しても、そのうち人口が激減する大情勢のもとでは、いずれあの地域もカラスの領分になると、ひそかにカアカアと快哉を放っていることでしょう。そして拙老は、近頃とみに桃仙境の住人に化そうとしている身として、どちらかといえばカラスに近い視点から人界の栄枯盛衰を俯瞰することにしています。

 

今回はもう一つ特記すべきことがありました。サッカーワールドカップ予選の日本‐ポーランド戦での、悪名高い10分間パス回しのことです。拙老はまず、「日本も玉砕しない国になったものだ!」という感想を持ちました。そりゃ戦略ですからいろいろあるでしょう。「負けて勝て」という指示がどこか高い所から届いていたのかもしれません。でもゲームに勝つ動機は何でしょうか。決勝戦に進出するだけで相当のドル収入になるそうです。まさかそんなことはないと思いますが、人界では物事がすべて「経済効果」で判定されるのが昨今の情勢なのでしょうか。 了

 

 

 

 

 

 

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