〽許せかし名もなき草と呼びたれどほんとはわれが名を知らぬだけ
〽未練なと笑ひ召さるな八十路坂道に眼留むる花のいろいろ
〽老いらくの果てに迎えるトリレンマよだれと呂律紙おむつなり
〽煉獄の暑熱をくぐる曼珠沙華燃ゆる炎も涼しげに咲く
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今年の夏はいやに長く、また異様に暑かった。庭の小動物や植物たちにも異変が続々。蝉は鳴かず、蚊は飛ばず、バラは半ば枯れ、ほぼ全滅かと思っていたが、さすがにヒガンバナだけはその名に違わず、ちょうど秋分の日に地上に花芽を出しました。例年通りとはいきませんが、次々に花を開いてくれました。植物の生命力が気候変動に勝ったわけです。
そんなことがやたらに心嬉しく感じるのも、年齢のせいかも知れません。もうたいして寿命は残されていないから後はドウナトキャアナロタイでどうでもよいようなものの、やはり今の異常気象が一次的な変動にすぎないのか、それとも地球全体に生じている不可逆的な過程の始まりかは大いに気に掛かるところです。 了
癸卯秋腰折五首
〽幕末史遥か後ろを辿りつつ御長寿祈念野口先生
〽曼珠沙華ことしも咲けり北国分約を違えぬ律義者かな
〽トリレンマ我が身も同じ貧しくて名もなく老いる死にたくもなし
〽我が心なぐさめかねつと詠みませし古人の思い老いのわが身に
〽鏡にて顔馴染みなるこのおやじ迂闊に過ぎて年ばかり寄る