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令三春六吟半歌仙』の発句(綺翁)の選定

『令三春六吟半歌仙』の発句(綺翁)の選定についてはいろいろ迷いましたが、けっきょく公開句順表にあるように「茅の海やいざ漕ぎ出でむ春の潮」に治定しました。一度は 「知の海にいざ漕ぎいでむ春の潮」にともしたのですが、その後考えるところあって「茅の海や」に落ち着きました。理由は以下に申し述べます。令三春六吟半歌仙句順表
問題の発端は、連句式目に、「「松永貞徳が示した、「名所、国、神祇、釈教、恋、無常、述懐、懐旧おもてにぞせぬ。」のきまりが、そのまま現代連句でも受け継がれており、そのほか地名、人名、殺伐なこと、病態、妖怪なども嫌われている」(東明雅『十七季』)という申し合わせがあり、綺翁子が使った「茅の海」は、大阪湾の古称ですから固有地名ということになり、禁則に引っかかるのではないかと考えた次第です。また綺翁子の発想を窺ってみると、「茅の海は知の海、言葉の海との掛け言葉のつもりでして春の最強の上げ潮に乗って知の海へ自らの力で漕ぎ出しましょうかねという句意」だというので、いっそのこと「知の海」でいったらどうかと思い返しました。
ところが、どうもわれながら釈然としないのです。初句から「知の海」と、抽象語を交えた比喩で出るのは、なんだか新体詩みたいで気が そそりません。
考えあぐねていたところへ、図らずも2つのヒントが相次いで訪れました。「これだ!」と思わず飛び上がりました。
①幸田露伴の意見です。「冬の日木枯の巻概観」の」中で露伴は「竹斎」なる人名についてこう言っています:「表六句の中に人名国名地名などはせぬが常法なり。幕末になりては特にかゝることをばこちたく云ふこと、所謂宗匠の教なれども、竹斎は作り物語の中の名なれば、有るが如く無きが如き故、難無きなり」と。――つまり、固有名詞でなく、普通名詞として扱えというのです。
②もう一つは三山子の何気ない疑問表出の一文です:大阪湾は「茅の海」ですか? 「茅渟の海」では??――するどい! たしかに大阪湾の古称は正しくは 「茅渟の海(ちぬのうみ)」であって、「茅の海」なる地名は 存在しない。だから――ひょっとして怪我の功名かも知れないが――綺翁子は固有名詞ではなく、普通名詞を詠んだにすぎない。これは架空の地名であり、どんな地図の上にも実在しない幻境の海域なのです。

〽茅の海やいざ漕ぎ出でむ春の潮

三山さん、これを発句として脇を固めて下さい。
里女さん、この二句を掌で受けて下さい。

 

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