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永世詩債について――『明治伏魔殿』が刊行されました

このたび「開化奇譚集」と銘打った小説集『明治伏魔殿』が刊行されました。幕末から明治初年の波瀾万丈の変動期に起きたいろんな出来事を5つ揃えています。上野の彰義隊、幕府歩兵隊から明治天皇の馭者になった男、銀座煉瓦街の裏話、明治の贋金造り、斬首される武士の娘――いやア、この短い歳月に、びっくりするほど多彩で密度の濃い事件が発生したものです。

2月21日頃から書店に出回ると思います。

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筆者桃叟には、まだ少し寿命がありそうですから、これが最後の作品にはならないとは思いますが、とかく物情騒然たる昨今、世の中は突然何が起こるかわかりませんから、これからの仕事は全部「非常持ち出し」で取りかかるつもりでいます。

桃叟はけっきょく一生の間、詩債を負い続ける人間なのだと思います。いわば「永世詩債」の債務を背負っているのです。「詩債」とは本来、人から貰った詩に次韻して返すことをいうのですが、もっと意味を広げ、何であれ強く感銘を受けた事柄を詩文化できずにいる負い目をいうようになりました。「書債」「文債」という言葉もあります。桃叟はいつもこの債務を抱えています。債権者も桃叟自身です。場合によっては自己自身への債鬼になるかも。

『明治伏魔殿』を世に問うた現在、桃叟が専心している次の仕事は逝妻芳子を追悼する歌集『うつつの津の国』の上梓です。「詩債」にならって「歌債」という言葉を作ってもよいと思います。この歌債を完済することにここしばらくは専念させていただく所存です。よろしく。

 

 

 

 

コメント4件

 行者 | 2022.03.20 20:37

関西は先週あたりから春めいて来ましたが、野口先生にはご健勝のことと存じます。明治伏魔殿、崩し将棋から粟田口の女まで本日読了いたしました。後書きでも触れておられました過渡期の人間模様、その躍動感と切なさに心を打たれたところです。とりわけ江戸期の女性像にドキリとしながら先生のネオフィクションを堪能させていただきました。また明日から二度目の伏魔殿を令和の世相を踏まえながら耽読させていただきます。

 ugk66960 | 2022.03.21 20:13

四つめのコメントどうも有難うございます。どこのどなたか存じませんが、見えない味方が側にいてくれるようで心強く思います。どうか今後もおみすてなく。拝

 閑雲 | 2022.05.05 12:17

時々、貴ブログを拝見させていただいております。

今回は、『明治伏魔殿』を拝読し、以前と変わらぬ健筆ぶりに驚嘆敬服し、コメントを申し上げる次第です。

御著作は多く閲読してきましたが、本作もこれまでの著作同様、興味津々、一気に読ませていただきました。

歴史に埋もれたエピソードに色彩と命を与えて蘇らせ、しかも、冷静な歴史家、文献家としての視点を忘れずに描写する筆力には毎回感嘆させられてきました。
大いに読書の楽しみを与えてくださり、新刊が出るのを楽しみにしておりました。

既に八十路をだいぶ歩まれて未だ創造力において矍鑠、今回の作品でも色香漂う場面も描写され、ご高齢を全く感じませんでした(失礼かつ冗談ながら、『元禄六花撰』『元禄五芒星』などと同様、あのエロスの妄想が脳内を若くしているかと拝察した次第です)。

「粟田口の女」の処刑の場面は、私には苦手ではありましたが、よくぞ描き切ったとの感想を持ちました。

ブログでは、まだまだ創作意欲は衰えないとのこと。お喜び申し上げます。

今後の御健勝をお祈りし、次作の発刊を待ち望むことといたします。

突然のコメント失礼いたしました。(当方65歳の若輩ながら脳内すでに朽ちたり)

 ugk66960 | 2022.05.05 15:58

コメント有難うございます。年ごとに愛読者が逓減するのを託つ昨今でしたが、久々に我が意を得させて頂きました。読書社会の現状を見ますと、まことに寂々たり寥々たる有様。老生の書くもののように漢字が多い本は敬遠される一方です。貴台の如く、老生の文章を楽しんで下さる読者がおいでになることは――――口幅ったい言い方で恐縮ですが――――日本文化の資産だと思います。今後ともよろしくお見守り下さい。

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